人を育てる前に、人手が足りない

6月のコラムで、県が3月に公表した「熊本県におけるDXの取組状況に係る調査報告書」をもとに、DXを進めるうえで「人材が足りない」ことが課題であり、DX人材は採用するより社内で育てるほうが近道で確実だとお伝えしました。同じ報告書では、DXの課題として「DXに関わる人材が足りない」を挙げた企業が59.4%、「予算の確保が難しい」が44.6%、「何から始めてよいかわからない」が18.7%でした。

ところが、社内で育てようにも、育てる時間と人手がない。これが中小企業の実感ではないでしょうか。そこで10月7日、「『人が足りない』を、AIで補う。」をテーマに、中小企業のためのDX×AI活用セミナーを開催しました。第1部はIPAの古賀孝明氏によるDX人材の育成、第2部は古賀マネージメント総研の古賀義隆氏によるAI秘書の活用、第3部は原智輝弁護士によるAI時代のホームページ活用と法的リスクの管理という構成です。今回は、人手不足への答えとして最も身近だった第2部の内容を中心に、私が受けとめたことをお伝えします。

講師が示した「1業務から」の考え方

第2部の古賀義隆氏は、「全部ではなく、1業務ずつが近道」と強調されました。最初にAIに任せる業務は、次の3つがそろうものから選ぶと効果が出やすいそうです。

  • 毎月くり返す仕事(頻度が高いほど、効果が積み上がる)
  • 手順が決まっている仕事(型にできる仕事ほど、AIが得意)
  • 担当者しか分からない仕事(属人化した業務を、人から解放できる)

議事録、月次資料、問い合わせへの返信あたりが入り口です。進め方は、まず1業務・1日15分から始めて最初の1か月は必ず人が確認する、次にうまくいった指示を手順書にして誰がやっても同じ結果になる型にする、最後に決まった時刻にAIが実行して人は承認するだけにする、という順でした。

顧問先での事例も印象に残りました。社員が私費のChatGPTで積算していた建設業では、会社で有料版を配り、使い方のルールを先に決めました。月末に50枚を超える請求書が取引先ごとに違う形式で届く製造業では、経理担当者と過去のデータを見ながら、1社ずつ型をつくりました。導入を決めても1か月後に設定が終わっていなかった会社は、ログインや権限の設定で止まっていたため、最初の設定は講師が横について一緒に行いました。講師の結論は、つまずくのはAIの性能ではなく、社内の段取りだということです。耳の痛い話でした。

自動運転のレベルに例えた整理も分かりやすいものでした。「AIに質問し、文章を手直ししてもらう」がレベル1、「AIが下書きし、人がすべてチェックする」がレベル2で、多くの会社は今ここにいるとのことです。レベル4は、範囲を決めた業務はAIに任せきりにし、人は承認だけを行う段階です。皆様の会社の業務は、いまどのレベルにあるでしょうか。

私自身の「1業務」

私自身、この春からClaudeを使っています。月に20ドルほどですが、その100倍くらいの仕事をしてもらっていると実感しています。たとえば、プロポーザルの提案書づくりです。県庁にいた頃は、最低でも2〜3週間、多くは1か月ほどかかっていました。先般応募したプロポーザルでは、AIの力を借りて、わずか2日ほどで最終版に近いものができました。この案件は採択され、専用のホームページも、今年3月に入社した新人がセミナーで紹介した方法で作成してくれました。

毎年の妻との旅行計画も、以前は1か月近く夜なべをして30ページほどの資料をつくっていましたが、今は過去の資料を渡しておけば、テレビを見ている間に次の候補を出してくれます。AIは間違えるので確認が必要だと言われますが、私がつくった資料の論理的なミスまで指摘してくれます。

弊社にも、30年余りの研修事業で蓄積したノウハウがデータとして残っておらず、業務の改善につながっていないという課題がありました。DX認定に取り組む中で気づいたことです。これも言ってみれば「担当者しか分からない仕事」でした。

参加者の反応

アンケートには28名(会場8名、オンライン20名)からご回答をいただきました。

項目人数(回答28名中)
総合評価が「大変良かった」「良かった」21名(75%)
学んだことが仕事に「役立つ」「大変役立つ」23名(82%)
内容が「分かりやすい」「とても分かりやすい」23名(82%)
第2部(AI秘書)が「大変良かった」「良かった」23名(82%)

セルフチェックシートには9名が回答くださいました。生成AIを業務で使っているかとの問いに「できている」が5名、メールや議事録などの文書作成に使って時間を減らせているかにも「できている」が5名でした。一方、人手が足りない業務を洗い出してAI・デジタル化の対象を決めているかに「できている」と答えたのは2名で、4名は「できていない」でした。使ってはいるが、どの業務に使うかは決めていない。今回の講演が指摘した点と重なる結果です。回答は9名と少数ですので、傾向としてお読みください。

研修に使える助成金・補助金については、同じ9名のうち4名が「知らない」、5名が「知っているが活用したことはない」と答えています。DX認定制度を「知らない」とお答えの方は、28名中14名と半数でした。

自由記述では、Claudeでつくる AI秘書の完成イメージや、メモアプリとの連携が参考になったという声がありました。一方で、厳しいご意見もいただきました。事例の紹介が中心で、構築の具体的な方法や技術的な説明、失敗例をもっと聞きたかったというものです。中小企業といっても規模や段階で課題は違うのだから、実態から逆算してテーマを決めるべきだというご指摘もありました。県の報告書でも、従業員20人以下の企業では「必要だと思うが取り組めていない」が3割以上を占めています。ごもっともなご指摘です。無料のセミナーでお伝えできることと、自社の業務を使った実習が必要なことの線引きを、案内の段階でもっと分かりやすくお伝えすべきだったと反省しています。

まず1業務を書き出してください

人が足りないからこそ、人にしかできない仕事に人の時間を使いたい。そのためには、人がやらなくてもよい仕事を、まず1つ手放すことだと、今回改めて思いました。

今週中に、「毎月くり返す」「手順が決まっている」「担当者しか分からない」の3つがそろう業務を、1つだけ書き出してみてください。議事録でも月次資料でも構いません。そして1日15分、最初の1か月は人が必ず確認する。そこから始めましょう。

弊社では、自社の業務を題材に実習する「AI秘書実践講座」(12月2日・16日、1月20日・27日の水曜のうち1日、対面、定員10名)を用意しています。県のリスキリング応援補助金を活用できる場合がありますので、詳しくは申込ページをご覧ください。

申込ページ:https://www.kmt-ics.co.jp/news/1507/
出典:熊本県「熊本県におけるDXの取組状況に係る調査報告書」(令和8年3月公表)